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誰もが気軽に立ち寄れるまちの東屋③

みるみる変身住宅レポ

誰もが気軽に立ち寄れるまちの東屋③

地域に開かれた、屋根付きの休憩スペース。それ以上に、アート空間として存在感が美しい。

遠くから見ると、神殿のような佇まい。まちなかで休憩できる東屋のような場所として改修された家。建築家の新森さんが購入し、オーナーとしてこだわり抜いて設計・改修した物件は、着工から8ヶ月の時を経て3月上旬、ついに完成しました。元々のコンセプトだった「地域の人たちが散歩の途中にひと休みできる東家」。オープンのお披露目はこれからですが、すでに腰をかけている人、お弁当を食べている人など、実際に使ってくれている姿もちらほら。これまでになかった場所だからこそ、これまでにない使い道ができるかも知れない。新しい価値が生まれるかも知れない。できたばかりの東屋について、新森さんが語ってくれました。

新森自分がオーナーということもあり、納得できるものを創りたいという思いはありました。もちろん、予算はありますが、妥協はしたくない。もともと凝り性で、細かな部分にもこだわりました。たとえば、柱の向きや形状。少しずつ向きや角度を変えているので、面ごとに明るさが違って見えるように設計しています。時間帯によって影のつき方なども違ってくる。水が切れるよう、柱の下端には隙間が設けてありますが、これによって柱が浮いているような影も出て、表情が豊かになっています。

計算なのか、感覚なのか。微妙にランダムに並べられた柱の上に、2階の建物をちょこんと乗せたような佇まい。そんな柱の森の中に、天から降りてきたような直線階段があります。靴を脱いで2階へあがると、そこは突然の別世界。白く明るくオープンな1階とは対照的な、シックで落ち着いた空間。このコントラストが、訪れる人を驚かせます。そこに施された工夫の数々。1階に負けず劣らず、2階にも新森さんのこだわりが詰まっていました。

新森2階の入口には、2つの扉を設けました。1つは正面にある、茶室のにじり口のような低い扉。もう一つは荷物搬入用の高さのある扉です。ふだんは低い方の扉を使い、階段を登ってきた人が、かがんだ状態で部屋に入るように設計しました。まず床面が視界に入り、そのまま低い目線のまま過ごしてもらおうと。目線を下げることで、狭い部屋を広く見せる効果があります。天井を抜き屋根裏空間と一体にしたことも、同様の狙いです。元々の天井の高さには、照明器具を設置するためのワイヤーを張り巡らせました。照明はリングをソケットに付けたもので、可動式になっています。これで、その時々の部屋の使い方に応じて照明位置を変えることができます。

部屋の壁をぐるりと一周する鉄の部材は、アクセントであるとともに、展示台としても使えるよう配置されています。もちろん視覚的なノイズとなる支持材が見えないような拘りも。

新森この部材高さは、展示台として使いやすさを意識するとともに、部屋に入った人の目線を少し下に誘導するように設定しました。扉の部分では、建具側を3ミリだけ高くし、開閉時にぶつからないように設計しています。

1階は開放的なピロティ、出入りし放題の空間です。内なのか外なのか、ここには境界という概念がありません。近所のお年寄りや子どもたちには、積極的に自由に使って欲しいそうです。東家的な使い方ばかりではありません。新森さんは、アートギャラリーのような展示空間としての使い方もしてほしいと言います。1階だけ、2階だけと個別に使える場所ですが、両方を一体的に使えるのが理想的だとか。まだまだ構想の段階ですが、話は具体的な展示内容にも及びます。

新森元々は塾だったこともあり、誰もが学べたり、何かを感じ取ったりしてもらえる場所にできればと思っていました。そういう意味でギャラリーは意図に合っていますし、場の空気にもぴったりではないかと。そこで、設計段階から作品展示などを想定した工夫をしています。2階にはフレキシブルに展示できる棚。1階のブレースには、展示物を固定するためのボルトを予め取り付けています。オープンな1階と、完全クローズドな2階、対照的な空間の併用で、展示できる作品の幅や、展示のアイデアも広がるのではないかと思っています。作品の展示以外にも、地域の人のチャレンジショップのような使い方をしてもらえても面白いですね。

2階は予約制で、レンタルスペースとして使っていただく。一方、1階はオープンな空間なので、予約なしに自由に使ってもらえるスペースになる予定。普段は誰でも気軽に休憩できる場所ですが、それとは別に何か特別な展示やイベントができないかとか、新森さんは目をかがやかせます。特に1階は、わざわざ中に入らなくても、外からでも展示物を鑑賞していただける場所。それは、地域の人に豊かな日常を提供する場所とも言えます。まちなかで本格的なアート作品を鑑賞する機会が少ない塩屋では、特別な場になるはず。このまちに暮らしている人にしか味わえない特別な展示、ワクワクするような体験を提供すること。日常のとなりに非日常があるまち。構想はさらに膨らみます。

新森展示をお願いしたいアーティストには、すでに声をかけはじめています。普通の、いわゆるホワイトキューブに展示してあるような美術品とは違う、わざわざ階段上がって覗くように観に行く作品。2階は、突然違う世界に足を踏み入れる感覚も含め、美術品の展示にとても合っているような気がします。少し変わっていたり、驚きがあったりするものであればあるほど、ここでは展示物が引き立つのではないかと。色々詰め込もうとせず、1点だけ作品を展示する手法も効果がありそうです。むしろ、そういう展示が似合う作家や作品を選んでいきたいと思います。

今回、空き家を改修する事業に応募したのは、ストックを活用していくことの重要性を感じてのこと。これは建築に限らず、とても重要な課題です。今や新しいものをつくる時代ではありません、すでにあるものをどのように循環させ、再利用していくべきか。たとえば廃棄食品で建材をつくって使おうとしている人がいるなど、分野の枠を超え、さまざまな取り組みが行われています。今までなかったものを、新しいフィールドに送り込んで、課題の解決を図ることは、若い世代が果たすべき使命なのではないか。そういう挑戦と空き家の活用をうまく組み合わせていけば、また違う世界が開けていくはず。職業柄というよりは、普通に一人の人間として、そうすべきじゃないかと、新森さんは言います。

新森こんな時代にあって建築家として思うのは、美しさを忘れてはならないということ。僕たち建築家の専門性はそのために存在するものだと思うのです。ちょっとした棚や椅子のデザインを機能だけで考えない。美的感覚は、やはり専門職であるが故に持てる基準ではないでしょうか。建築家と名乗る以上、ここは妥協せずに設計を続けていきたい。空き家の改修も社会的な意義はもちろんですが、楽しさや遊び心をどれだけ込められるか。建築家の腕と心意気が試される仕事だと思います。

新森さんの美意識が詰まった空き家の改修プロジェクト。リノベーションの好事例である以上に、半公共の空間のあり方にも新しい視点を提供してくれました。さまざまな可能性を持つ美しい建築物。建物自体が一つのアート作品のようにも見えます。

Profile

新森雄大さん
新森雄大さん
Niimori Jamison 共同主宰

一級建築士 1986年徳島県生まれ。滋賀県立大学大学院人間文化学研究科、スイス・イタリア大学大学院メンドリジオ建築アカデミー修了後、2018年Jamisonと共にNiimori Jamisonを設立。名古屋造形大学非常勤講師(2019-)、京都芸術大学非常勤講師(2022-)、京都市立芸術大学非常勤講師(2023-)

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