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誰もが気軽に立ち寄れるまちの東屋②

みるみる変身住宅レポ

誰もが気軽に立ち寄れるまちの東屋②

傾斜地に生まれる段差を活かす。まちのひとが自由に使いこなす多用途な空間に。

塩屋のまちは斜面地が多いです。狭い坂道に面した高低差のある敷地で、建て替えが難しいケースも少なくありません。そのため、大規模な開発ができず、建て売りメーカーの参入もあまりないエリア。新森さんも今回の物件を比較的リーズナブルな価格で手に入れたと言います。ただ、どれだけ改修に費用がかかるのか、本格的に調査をするまで心配だったと、本心をうちあけてくれました。

新森狭い三角形の土地に建つ家は、土地の形状のせいもあり、使いにくそうな間取という印象。ただ、三角形のデッドスペースにトイレを配置し、その横に水回りと、狭いながらも各機能が上手く納まっていました。そんな1階部分も、今回は、オープンな半屋外空間にする計画なので、階段を残してスケルトン状態になりました。

7月上旬、いよいよ、着工。このユニークな東屋プロジェクトは、完成を目指し、本格的に始動しました。解体をはじめると、屋根回りは思ったほどひどい状態ではなかったそうです。風通しがよい場所だったようで、傷みにくかったのかも知れないと、新森さんは推測します。一方で床下は、かなり腐朽が進んでいました。とくに柱や土台には大きなダメージ。水捌けも悪くない場所でしたが湿気も相当あり、シロアリにもやられ木材がスカスカの状態でした。効いていない柱もあり、家は柱ではなく壁で支えられていたようなイメージ。腐朽部分はカットして新しい木材を継ぎました。また、金物も適切に設置することで補強。そんな躯体の修復から、スタートしました。

新森最もこだわったのは、みんなが集うことになる1階の部分の設えです。4つのエリアに分割し、島状に4つの基礎を打設。基礎の天端は高さが揃いますが、敷地自体に傾斜があるため、地面・道路からの高さは4つの基礎でそれぞれ異なります。違う高さの基礎を、テーブルのように、あるいはベンチのように、まちのみんなが思い思いに使いこなしてくれる。そんな場所になればいいなと思っています。施工にあたっては職人さんに苦労を掛けました。前面道路が狭く大型車両が寄り付けないため、必然的にコンクリートは手打ちになります。つまり人力。暑い中コンクリートを練って打設してと、大変な作業だったと思います。でも、職人さんの丁寧な仕事のおかげで、手練りながらうまくきれいなコンクリートの基礎ができあがったと思います。

島状に打った基礎のおかげで、訪れる人によって違った使い方のできる段差が生まれます。ちょっと腰掛けたりするのにも、段差は便利。こういう場所があると、思わず休憩したくなるでしょ、とニコニコの新森さん。1階には給湯器や室外機などを置かない設計にしたのは、地域の方に開放する場なので、ゆとりのあるすっきり美しい空間にしたかったからだと。どんな異物も置かないようにしたそうです。

新森2階のポイントといえば、天井を取り払い、梁を表しにしたことでしょうか。もともと屋根裏に意外と高さがある建物だったので、かなり開放的な空間になりました。大きな梁もそのまま目に入るので、部屋のアクセントになります。外壁面に使用されていた木目のプリント鋼板もそのまま残します。耐久性があるのでしょうか。そんなに劣化しておらず、きれいなままなんですよ。いまはもう生産されていない建材ですが、近隣には同じような懐かしい建材を使った家がたくさんあります。まちの記憶の継承のために、また長く歴史をくぐりぬけてきた家の勲章として、外装のプリント鋼板はそのまま残したいと思っています。

道に面した誰もがよく通る場所に、ベンチがあって、屋根がある。座って休むことができる。交流がはじまる。そういう場所になると嬉しい。私有地だけど、誰がきて、何をしても良い空間。2階のスペースは、イベントなどをしていないときは、近所のひとに開放するとのこと。テレワークしている方がオフィス代わりに使ってくれてもいいようです。私有地をひらくとはそういうこと。だから、入りやすい佇まいと空気感が大切なんだそう。前の家が建っていた時も、三角形の敷地の端っこのスペースは、幼稚園の子どもたちが集まって遊んでいた場所。今後もそういう場所になってほしい。ギャラリーで展示イベントしたり、地域のひとがワークショップをしてくれたり、近所の人が集まってコミュニケーションする場になれば、と新森さんは願います。

新森今回のプロジェクトは、完全に私の趣味なんですね。どんな使い道にするかも、どんな風にリノベーションするかも、ぜんぶ自分で決められる楽しさ。でもお金がかかることなので、すべて理想通りにというわけにはいきませんが、それでも随所に思いをこめられる、それが素晴らしいです。今年の間に、お隣の小さな空き家も建築家が関わって改修されるんです。チャレンジショップのような使い方もできる建物になるそうですよ。入り口がこちら向きなので、この東屋を通り抜けてその建物に入っていくこともできるという不思議な関係。今からとても楽しみです。

こんな風に、自分の家の近くで、建築家によるリノベーションの事例を見る機会があると、うちの空き家も建築家に頼めば面白く再生できるのかなと思う人が出てきたりするのではないでしょうか。そんな風に建築家の活躍の場が広がることと、空き家活用の機運が高まることも期待されます。新森さんは、すでに近隣の10件ほどの家には何度も足を運び挨拶をされているのだそう。これからご近所さんになる方々と、まちの未来について楽しそうに話をしている姿が目に浮かびます。リノベーション工事は順調に進んでいます。(つづく)

Profile

新森雄大さん
新森雄大さん
Niimori Jamison 共同主宰

一級建築士 1986年徳島県生まれ。滋賀県立大学大学院人間文化学研究科、スイス・イタリア大学大学院メンドリジオ建築アカデミー修了後、2018年Jamisonと共にNiimori Jamisonを設立。名古屋造形大学非常勤講師(2019-)、京都芸術大学非常勤講師(2022-)、京都市立芸術大学非常勤講師(2023-)

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