「古くて新しい」ギャップを楽しむリノベ団地
余白を生かしたミニマム空間で暮らす第二の人生
外観はそのままに、間取りや内装デザインを新しくする団地リノベーションが近年注目されています。シンプルでおしゃれな空間に暮らす香川さんに、団地リノベの魅力やこだわりの暮らし方をお聞きしました。
リノベ暮らしの先輩紹介
香川かづあきさん(62歳)
ペットをモチーフに鉛筆画や水彩画を描く。料理が趣味で、得意料理はせいろを使ったシンプルな蒸し料理。文庫本やコーヒーを持って徒歩約15分の大蔵海岸まで散歩するのも楽しみのひとつ。
費用・データ
- 購入金額
- 1,280万円
- 築年
- 昭和44年3月
- 広さ
- 55.68㎡
- 家族構成:
- 大人2人
- 職業:
- 動物画イラストレーター
- ライフスタイル:
- 少ない物で豊かに暮らし、静かで落ち着いた生活
間取り図
外観からは想像できないホテルライクな室内
神戸市垂水区と明石市にまたがる約200ヘクタールの広大な明舞団地は、兵庫県内で最も古いニュータウンの一つです。1964年築の狩口台住宅(垂水区)4階のお宅を訪問すると、香川さんが一緒に暮らすパートナーさん(48)と一緒に出迎えてくれました。室内はホテルの一室のように洗練されていて、完成から60年以上建つ建物の古さは全く感じません。「外観は昔ながらだけど、室内に入ったら新築みたいでしょう。私たちはこのギャップを愛しているんです」。団地らしからぬ間取りにも驚きました。元々の狩口台住宅は1世帯を4人と想定した昭和らしい2LDKの間取りでしたが、リノベで1~2人をターゲットにした1LDKに。内装デザインは白のクロス材と木目の天井、床材でナチュラルモダンな空間に仕上がっています。
団地空間で追求する引き算の美学
壁をぶち抜いた広々空間を演出しているのが、余白と照明です。収納が少なく、クローゼットもオープンタイプな点は、特に香川さんの感性にフィットしたのだとか。「数年前に両親を看取って遺品を整理したとき、遺された側の気持ちを考えました。その経験からテレビ、洋服ダンス、ソファ、掃除機、炊飯器、車に至るまで必要ないものを手放して、軽トラ1台で引っ越してきました」。「終活」や「ミニマリスト」と言うとネガティブなイメージかもしれませんが、香川さんが追求するのは「余白」や「引き算の美学」。
「買うことが幸せな時代や年代は過ぎ去りました。ものを厳選すると空間が広がり、探したり迷ったりしなければ悩みも少なくなる。そういった生活を続けると、身も心も軽くなっていくように思います」。
持つときも手放すときも話し合って
オープンクローゼットのトレイに収める衣服は、上着1着、シャツとズボン2着ずつ、下着が3セットなどと特に少なく、配色はモノトーンに統一。家電やインテリア用品などを購入したり手放したりするときはパートナーと相談して決めるそうです。タオル地のスリッパが足裏の水分を吸収してくれるのでバスマットを置かず、炊飯器ではなく多機能に使える大型鍋でお米を炊き、食器は禅僧が使う椀にヒントを得たスタッキング漆器のみを使いこなすなど、こだわりもいろいろ。こうした“持たない暮らし”は、クラウドサービスや電子書籍などテクノロジーの進化で実現できた側面も大いにあるそうです。
優しい灯りが余白を演出
こうしてモノを厳選することで生まれた余白を、照明が素敵に演出しています。ベッドとオープンクローゼットの間のゆったり空間にはペンダントライトが床近くまでつり下がって優しい光を放っています。「調光できる電球を入れているので気分によって明暗だけでなく色も変えられます。シンボルツリーのような存在で、照明を囲みながら話をしたり、彼女がここでストレッチをしたりと空間を楽しんでいます」。間接照明は空間の広がりを感じさせてくれるので、団地のような小ぢんまりとした空間と好相性です。
室内に遺る築60年のレガシー
「ところどころに築60年の歴史を物語るレガシーが遺っているところも、住まいのお気に入りポイントなんですよ」と香川さんが教えてくれました。玄関スペースと居室スペースを隔てるのはリノベ以前からの扉。杉板の型枠跡が見えるあらわしのコンクリート壁も昔を感じることができるポイントです。戦後に核家族の新生活を支え、時代は移り高齢化や空洞化で郷愁をまとった存在になったものの、今また見直されつつある団地。その歴史を外観だけでなく、室内でも感じられるアイコンとなっています。
願ったりかなったり、内見の日に即決
父親が転勤族だったことから、幼少期に団地住まいを経験した香川さん。実家で両親を看取った後「そうだ、団地に住もう」と思い立ち、2021年に明舞団地へ越してきました。徒歩圏に海とJRの駅、スーパーや病院などがそろう住環境のよさとコンパクト生活を楽しんではいましたが、無断熱が唯一のネックだったそうで、別物件を求めてネット検索していたところ見つけたのがこちらの物件。工務店フロッグハウス(明石市)が物件を買い取ってリノベを企画・施工し、リノベーション後に販売する「愛ある団地再生プロジェクト」の第1号でもありました。新建材を使用して内装を改装しただけでなく、等級4(次世代省エネ基準)の断熱工事や上下水配管、電気配線の更新も行われたフルリフォーム物件。しかもリノベーション・オブ・ザ・イヤーを連続受賞している団地リノベのプロが手掛けた、とがり過ぎず無難でもないバランスの取れた設計やデザインに一目ぼれしたと言い、「『こんな理想的な物件ってある⁉』と2人で感動して、内見した日に購入を決めました。当初は賃貸物件を探していたんですが、フルリノベーション物件で1000万円台という高いコストパフォーマンスも決め手になりました」と言い、2025年3月に居を移しました。
想定外のご縁にも恵まれて
工務店主催のイベントでプロジェクト1号としての経験談を語ったり、同じ団地内に越してきた2号さんとお近づきになったり、団地再生事業の一環で営む地域の図書室のオーナーさんと知り合いになったり…。「年齢を重ねると友達はできにくいだろうと思い込んでいましたが、新居を介してたくさんのご縁ができたことは想定外でした。思いのほかたくさんお知り合いができたので、先日ホームパーティーを開いてみたらとても楽しくて、これも越してくる前は想定していなかったことです。『またパーティー開きたいから、お客様用にイスを一つ増やしてみる?』『食器はディスポーザブル品でいいよね?』とパートナーとの話し合いもますます弾みます」。余白と光に満ちたこの空間で、香川さんの人生は一層充実していきそうです。
先輩からのメッセージ
団地は「古い」「狭い」「不便」などと語られがちですが、シンプルかつ堅ろうなつくりなので、自然災害に強く、大規模修繕などきちんと手入れすることで長く使い続けることができると言われています。面積や価格がミニマムなのも大きな魅力で、単身やDINKs(Dual Income, No Kids)、子どもが巣立ったミドル世代には管理が楽なちょうどよい広さです。建物と建物の間に十分な空間があり、南向きの建物が多いので、日当たりや風通しがよいのも団地ならでは。エレベーターがないのは団地特有の課題ですが、むしろ私は建物の管理費や修繕費が抑えられ、健康寿命を延ばしてくれるのではと感じています。リノベでは部屋の仕切りを変えてライフスタイルに合わせたレイアウトができるのが団地の醍醐味。あとは断熱対策を強くお勧めしたいです。空き室はたくさんあるので、素敵にリノベして多くの人に団地暮らしを楽しんでほしいです。団地はさまざまな活性化プロジェクトが生まれる場所ですから友人知人ができて趣味や知見も広げられますよ。
断熱については「断熱リノベのススメ」に別記事を掲載しています。