プロに聞く、断熱リノベのススメ/Vol.5 MUJI HOUSE様・無印良品のリノベーション グランフロント大阪
高い断熱性能と自由度のある空間という新しい価値を提案。マンションや団地のリノベを変える無印良品のショールーム。
無印良品の西日本最大の店舗であり旗艦店である「無印良品 グランフロント大阪」。そのリニューアルオープンとともに、関西でもリノベーション商品「MUJI INFILL 0(インフィル・ゼロ)」の提供がはじまりました。店舗内にはマンションの1室を原寸大で再現したモデルルーム。壁の断面を見せる展示など、随所に断熱への理解が深まる工夫がなされています。もちろん無印良品のスタイリッシュな世界観、住まい方へのトータルな提案力、商品開発の思想なども感じることができます。このリノベ商品の狙いは何か、そのきっかけになった戸建て住宅MUJI HOUSEやURとの団地再生の取り組み、さらには、2024年度から提供を開始したZEH水準の「MUJI INFILL 0」誕生の経緯などについて、ご担当の大越マネージャー、MUJI×URご担当の松本マネージャーにお話を伺いました。
無印良品のリノベーション
グランフロント大阪
店長 営業部門マネージャー
大越翔 さま
無印良品のリノベーション
青山店
法人チームマネージャー
松本雄作 さま
中古マンション専門のリノベ商品、その原点は20年前に始まった無印良品の住宅事業。
大越店長中古マンション用のリノベ専門商品「MUJI INFILL 0」ができたのが2015年ですが、無印良品の住宅事業の歴史は、今から20年前、2004年に始まった戸建住宅「無印良品の家」まで遡ります。無印良品らしいシンプルさだけではなく、高水準な基本性能を備えた、長く使ってもらえる家にしようとの思いがあり、当時から耐震性や省エネ性の向上に力を入れていました。その家づくりの思想は、「MUJI INFILL 0」にも受け継がれています。その後、2012年にURさんとの取り組みであるMUJI × URがスタート。無印良品のリノベに注目いただくようになったのは、この頃からではないでしょうか。しかしこれは、URさんの賃貸住宅事業。お客様から持ち家のリノベのご要望をいただいてもお応えできない…。そこで新たに中古マンション専門のリノベーション事業「MUJI INFILL 0」を立ち上げました。まさに、お客様の声から生まれた商品です。
マンションのリノベは、お客様の持ち家という意味で、新築の家づくりと同じ感覚。
大越店長「MUJI INFILL 0」はMUJI×URと同様、集合住宅のリノベーションですが、実は出発点がまったく異なります。改修の対象は賃貸物件でなく、あくまでもお客様が所有されているマンションですので、高い耐震性や省エネ性など、長く住めることを大前提に考える必要があります。「MUJI INFILL 0」では、古いマンションを一度フルスケルトンの状態にしてから部屋を作り直します。コンクリート面の漏水や雨漏りがないかなども含めしっかり確認。中古住宅って、見えないところに不安があるものですから、できるだけ全部見える形にして、お客様に安心してもらえるようにしています。新築住宅同様の質の高さ、URとの取り組みで得た視点やノウハウなども活かしながら、快適な暮らしをお届けする。その中で、私たちが今とくに力を入れているのが断熱性能です。
冬の寒さ対策、夏の暑さ対策。高い断熱性能が、マンションの快適さを左右します。
大越店長日本の住宅における断熱性能の水準は低く、2025年から義務化される省エネ基準を満たしている中古物件は、全体の1割ほどと言われています。冬の寒さをガマンされていたり、エネルギーをたくさん使って暖房されていたり、健康的にも経済的にも優しくない環境の家がほとんどです。古い家のまま住み続けることは、古い断熱性能と住み続けること。だからこそ、無印良品のリノベーションではまず、その部分に手を加えます。外気に面する部分に性能の高い断熱材を施工し、窓も樹脂サッシ・ペアガラスの二重窓を入れることで、壁や窓からの熱の出入りをコントロールしてあげる。断熱性や使用する設備や機器の性能も考慮して、新築同等の省エネ性を有しているのか、一戸一戸計算します。今年立ち上げたばかりのZEH水準の商品も、この考え方の延長線上にあります。長く使う家ですから、できるだけ高い水準の断熱性能にしておく方がいい。リノベでも新築並み、あるいはそれ以上の水準を、もっと当たり前にしていかないといけない。断熱リノベは、この水準ぐらいまでやっておくべきだということを、モデルケースとして社会に示していきたいと思っています。
快適な空間ができてはじめて、無印良品らしい自由度のある間取りや内装を提案。
大越店長無印良品の住宅は「永く使える、変えられる」ことをコンセプトにしています。最初は二人でも子供が生まれて家族が増える、子供が大きくなると必要な部屋が増える。しかし、子供が独立すると必要な部屋が減る。同じ家でも必要な空間は、どんどん変わっていきます。それに対応できるように、予め大きな空間、自由度の高い空間を作っておくことが重要です。何度も工事をして、壁を立てたり取ったりもできますが、それには毎回お金も労力もかかります。ライフステージが変わった時にも、自分たちの手で簡単に住まいの形を変えられる方がいい。例えば、使わない間は建具を外して広く使っておく、必要になったら建具を入れて空間を仕切る、あるいは空間を家具で仕切ったりもします。壁とか、扉とか、余計な間仕切りはなるべくなくした状態の空間づくりです。また、マンションでは、窓の場所や数が決まっているので、壁で仕切ると暗い場所ができてしまう。風の通りも悪くなる。そういう意味でも、できるだけ大きな空間を作るということを提案しています。壁がない家は広く感じるため。60平米は必要だと思っていたお客様が、50平米でも十分になるなど、合理的な選択ができるようになります。部屋を隅々まで使い切ることができるリノベ。ここには、狭い団地を広く使えるようにしてきた、MUJI×URの取り組み視点が生きています。
団地やマンションのリノベ機運を高めたMUJI×URの取り組み
松本マネージャー当初に取らせていただいたお客様アンケートの中に、自由に自分で間取りを変えたいというご意見がありました。URさんと賃貸住宅のリノベ事業を始める際、最初にコンセプトにしたのが、この「自由に変えられる」という視点でした。賃貸住宅でも、住む人のライフスタイルに合わせてお部屋を自由に変えていける。これまでになかった、新しい賃貸住宅が提案できるんじゃないかなと。ショールームでも、この「自由に変えられる」部分をご覧いただけるようになっています。既存の押し入れは、ふすまと中棚を外し床を補強して部屋の延長に。見た目は収納がひとつもない部屋ですが、実はこれが住む人が自由にできる余白です。何も置かなければ4畳半だった部屋を6畳の広さで使えますし、もう一度部材をつけてクローゼットにもできます。広く使ってもいいし、収納にしてもいい、テーブルや椅子を持ち込んでワークスペースにしてもいい、さらには、カーテンで仕切って小さな個室にしてもいい、すべて住む人の自由。そのあたりの思想は「MUJI INFILL 0」も同じです。「MUJI INFILL 0」で人気の組み合わせキッチンや、和室を和室のまま洋室のように使える麻畳は、もともとMUJI×URで開発したもの。それをそのまま「MUJI INFILL 0」でも使うこともあり、シンプルな暮らしに必要なものスタンダートをつくろうということでも、連携しています。
松本マネージャー高齢者が多く、空き家が増えてきた団地という社会課題への対応ということではじまった取り組みですが、若い方の生活視点を取り入れたことで、MUJI×URの入居者の7割が若い方になりました。ある意味、古い団地、古い集合住宅の価値を変えることができたのではないでしょうか。神戸市内にも、落合団地、多聞台団地、新多聞団地、鈴蘭台第1団地、明石舞子団地に、60戸近くのMUJI×URがありますが、いま全国では約1,300戸を展開しています。この取り組みがメディアに載り、さまざまなところでご紹介もいただいたことで、一般の方向けのサービスである「MUJI INFILL 0」のPRにもなりました。引き続き多くの人が、中古住宅に興味を持ち、リノベーションを考える。そんなきっかけになればと思います。
今回取材させていただいた「無印良品グランフロント大阪」「無印良品のリノベーション」「MUJI×UR」について
» 無印良品 グランフロント大阪
» 無印良品のリノベーション
» MUJI×UR(団地リノベーションプロジェクト)