Good Morning 空き家

トップページ»リノベの教科書»
プロに聞く、断熱リノベのススメ Vol.1

リノベの教科書

プロに聞く、断熱リノベのススメ/Vol.1 フォワードハウジングソリューション様・神戸垂水の家

断熱リノベで、築50年以上の中古住宅だって新築以上の高性能に。

高性能住宅を普及させるために、建築事業者向けに研修や講演をされてきたフォワードハウジングソリューションズの井上賢治社長。超高断熱住宅の住み心地や快適性を、実際に体感してもらおうと神戸市垂水区に、フルリノベーションのモデルハウス「神戸垂水の家」をオープン。対象は建築事業者だけでなく、一般にも公開されています。これからの住宅のあり方を考え、今後の住宅づくりに活かしてもらうきっかけになるよう、断熱住宅が日本でもスタンダードになるよう、啓蒙活動を続けていらっしゃいます。省エネ法の改正によって、住宅には今後どんなレベルの断熱性能が求められるようになるのか。「神戸垂水の家」をご案内頂きながら、井上社長にお話を伺いました。

フォワードハウジングソリューションズ
井上賢治社長

昭和45年築とは思えない、フルリノベーションのモデルハウス「神戸垂水の家」

省エネ法改正で注目される断熱リノベ。でも、日本ではまだまだ普及していません。

リノベーション、新築する際には、断熱に注意を払う。残念なことに、そう考えている施主様はほとんどいらっしゃらないのが現状です。公開中のこのモデルハウスには、年間200社ぐらいの建築事業者が見学に来られますが、高断熱断熱住宅に積極的な事業者は、まだ多くありません。高性能な断熱住宅にするには、外張り断熱が必須になります。この施工には技術が要ります。しかしながら95%以上の工務店には、施工実績がない状態です。この問題を解決しようと、YKKAP様と協力して性能向上実証プロジェクト「神戸垂水の家」を手掛け、断熱リノベを啓蒙する活動を始めました。外張り断熱など専門的な技術を持った工務店を増やしたい。その上で、新築だけが選択肢ではないこと。中古住宅を買ってしっかり断熱リノベすると長く使えますし、長く使えると建て替えるサイクルも長くなり資産価値があがります。そういうことを施工会社にも施主にもしっかり伝えていきたいと思っています。

採光を確保しつつ、耐震補強と高断熱化を実現

断熱リノベと呼んでいること自体が、そもそもおかしい。高い断熱性能、省エネ基準を欧米なみに!

高い断熱の基準をクリアした住宅は、欧米では当たり前ですが、日本ではまだまだです。一定の断熱性能を満たしている住宅は日本では13%ほど。この数字が、先進国で最もローエネ国と言われている理由です。しかし近年、国もこの問題を重視、住宅の断熱性能を示す断熱等性能等級の基準が見直されました。2022年、それまで4等級だった上位最高が、7等級に。5級、6級、7級が新設されたのです。断熱性能は、UA値(外皮平均熱貫流率)の数字によって評価されます。これは、1平米あたりの熱の逃げやすさを数値化したもの。数字が低いほど熱が逃げにくく、断熱性能が高い住宅であることを示しています。最高等級の7は、東京や神戸では0.26です。しかし、この数字、欧州では当たり前の基準です。欧米ではさらに先をいく環境に配慮したLCCM(※1)という2050年モデル。建設から解体まで、家が生涯に渡って排出するCO2をマイナスにすことを義務化した基準です。省エネ住宅の最低基準は、2030年には等級5になり、それ以降も継続的に見直され、2030年までにZEH(※2)が義務化されるでしょう。そうなると、2022年の3月までなら最高等級だった省エネ住宅が、基準不適合になることも考えられます。いま一戸建てをお考えなら、最高等級の断熱仕様にしておくことがどれだけ大切なことか、お分かりいただけると思います。

地域区分別 断熱等性能等級と外皮平均熱貫流率(UA値)

LCCMライフサイクルカーボンマイナス
建築時、解体時、ランニングで出るCO2よりも多くの太陽光を乗せる。これが2050年モデル。できればここを目指したい。(つくるエネルギーを使うエネルギーよりも多くしたい。)

ZEHとは、net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語で、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味になります。つまり、家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家ということです。(資源エネルギー庁のサイトより)

イニシャルコストは新築なみの断熱リノベ。でも毎月のランニングコストで回収できます。

冬も寒くない、夏も暑くない、そんな理想的な家をつくるには、それなりの費用がかかります。結果として新築と変わらないぐらいになるケースもあります。そんなにコストがかかるなら、安い中古住宅を買った意味がないとおっしゃるお客様もいらっしゃいますが、光熱費が安く済み、家の寿命が長持ち、そして何より家族の健康でいられると考えると、決して高くないはず。そういったご説明で納得いただける方も大勢いらっしゃいます。改修のポイントは、住宅を購入する際に、一気にフルリノベーションすること。これなら、リフォームローンではなく住宅ローンが使えます。光熱費も比較してみましょう。Ua値(外皮平均熱貫流率)0.3の家に、5〜6kWの容量の太陽光発電パネルを使い、蓄電池代わりにEV車を使うと、まったく光熱費がかかりません。電力会社から電気を買う必要がなくなるのです。このあたりのメリットがもっと多くの人に伝わると、断熱住宅の良さに気づいてもらえるはず。高いと思っていたイニシャルコストは、月々のランニングコストで回収できるのですから。世帯あたり、月平均で2万円近くかかると言われる光熱費ですが、35年後には5万円/月以上になるという試算もあります。経済的なメリットを考えると、断熱性の高い住宅にしておくべきだということがわかります。

S-ZEH建築費の比較

ヒートショック対策に。断熱住宅なら、トイレも浴室も、すべての部屋を一日中18℃以上に保てます。

毎年1万9千名の方がヒートショックで亡くなっています(*1)。実に、交通事故で亡くなる方の4倍です。命に関わる問題なのですから、やらない理由がわからない。住宅会社がこぞって社会問題にすべき問題だと思います。それでなくても日本の住宅は、結露して、カビやダニが発生しやすく、アレルギー症状を引き起こす原因にもなっている。健康を害する要因だとわかっていながら、どうしてここをおろそかにしているのでしょうか。ZEH住宅にお住まいの方に、家の断熱性能別に、一般社団法人環境共創イニシアチブがアンケート調査(*2)を実施しました。結果、断熱性能が高い家に住んでいる人ほど、「冬もお風呂や洗面所、トイレが寒くない」「部屋ごとの温度差が小さく過ごしやすい」というポイントが高くなりました。これは、家中どの部屋にも温度差がなく、一日の温度差も少ないという証。実際に住んでいる人だからこその実感だと思います。Ua値(外皮平均熱貫流率)0.3前半、熱交換型24時間換気の家なら、12畳用のエアコンは1台で、36坪の家を冷暖房できます。たとえば寒い冬、夜23時(外気温2.3℃)にエアコンをOFFにし、朝6時(外気温0.6℃)まで7時間無暖房の状態でも、全室で18℃以上をキープすることができます。WHO(世界保険機関)でも、寒さによる健康影響から住居者を守るため、室内を暖かく18℃以上に保つことを勧めているほど(*3)。またイングランド公衆衛生庁は、低い気温が健康リスクになると報告しています(*4)。

  • ◯ 18℃以上家の中の最低推奨温度
  • △ 18℃未満血圧上昇・循環器系疾患の恐れ
  • △ 16℃未満呼吸器系疾患に対する抵抗力低下
  • × 5℃低体温症を起こす危険大

「Sudden Death Phenome non While Bath in Japan」Masaru Suzuki, Takuro Shimbo, Toshiharu Ikaga, Shingo Hori/ Circulation Journal/81巻 (2017) 8号

経済産業省資源エネルギー庁主催「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2021」の資料より

WHO Housing and health guidelines : World Health Organization 2018.11

「Cold Weather Plan For England Making the Case」Public Health England

断熱リノベは、フルリノベが基本。一室だけ、などと部分的に行うものではありません。

断熱リノベは、一室だけを断熱してもあまり意味がありません。効果を考えるなら、家一棟を丸ごと断熱する必要がありますが、日本人にはフルリノベーショという意識がありません。コストがかかることなので、一室だけとか、壁だけとか、部分的に断熱してしまう方がいらっしゃいますが、効果が少ないばかりでなく、断熱していない場所に湿気を集めることになります。昔の家は、断熱とは反対に密閉せず、風通しがよい家をつくり、それが理想とされてきました。そんな家を部分的に断熱したばかりに、住まいにとって劣悪な環境をつくってしまったわけです。中途半端に気密性の高い家が増え、結露など、家を傷める原因になっている。この間違った断熱が、断熱のイメージを悪くしたのです。どの順番で断熱すれば良いとか、どこを強化したら良いという話ではありません。部分的な断熱は意味がない。だから、フルリノベーションなのです。ますは、モデルハウスで断熱住宅の快適さを体験してみてください。そして、家を建てた後の何十年後を想像してみてください。その決断が、省エネはもちろん、それ以上に大切な家族の、そして住まいの健康を守ることにつながると思います。

1F和室 冬はこの和室のエアコン1台で全館空調

外気の影響を受けづらく、結露が起きにくい樹脂サッシ

『神戸SDGs表彰』奨励賞を受賞されました!!(左:久元喜造神戸市長、右:井上賢治社長)
» 神戸市公式note『何がどうなったらSDGsなのか?受賞者から見えるヒント』

今回取材させていただいたフォワードハウジングソリューションズと神戸垂水の家について
» フォワードハウジングソリューションズ株式会社
» 性能向上リノベの会 神戸垂水の家
» S-ZEHの家 高性能住宅コンソーシアム

この記事をシェアする

神戸ライフをサポートするwebサイト
スマートこうべ
ページの先頭へ