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角野史和さん

建築家のしごと

丸五市場に続く裏路地に開かれた、パフォーミングアーツの拠点。

建築家・角野史和さん

長年、放置されていた空き家が、パフォーミングアーツの拠点に 改修前(上)・改修後(下)

100年以上の歴史を持つ丸五市場は、新長田エリアの中でもひと際ディープな場所。今回の改修物件は、この市場に続く裏路地にある2軒の長屋です。この建物の活用者である、パフォーミングアーティストの中間アヤカさんは、2012年に新長田に移住してきました。新長田はNPO法人ダンスボックスの活動拠点でありダンサーたちの聖地、立派な劇場など発表の場もあります。しかしながら、練習したり、腰を据えて創作に打ち込める場所があまりありません。多くのダンサー仲間たちが抱えていた同様の悩み。中間さんはそんな課題を解消しようと、この建物を借りたそうです。パフォーマーやダンサーたちの学びと成長の拠点にしたい。まちと一体になった空間をつくりたい。その想いに応えたのが建築家の角野史和さんでした。長年、新長田のエリアでまちづくりに関わってきた角野さんならでは視点。この物件を通じ、パフォーミングアーツと地域の関係をどのようにデザインしようとしたのか、お話を伺いました。

パフォーマンス棟とミーティング棟。2軒続きの長屋だからこそ実現できた、2つの役割を持つ建物。

打ち合わせは雑談のような感じで進みました。元々、中間さんとは知り合いでしたので、割とフランクに意見交換しながら、その場でスケッチを描いては見てもらうスタイルで。中間さんは、このスペースを「house next door」と名付け、「パフォーマンスとミーティングのためのスペース」にすると考え、一軒はスタジオ機能を持たせたパフォーマンス棟、もう一軒は打ち合わせや宿泊にも使えるミーティング棟に。2つの建物の使い方や役割だけでなく、第2の家というコンセプト、まちと建物が融合するイメージなど、「場のあり方」についても、当初からしっかりと構想されていました。それを最初に伝えてもらえたので、僕はそれをカタチにしていくことに力を注ぎました。例えば、彼女が持っていた、路地と建物が一体となるイメージを具体化するため、改修前は狭かった玄関を広い土間にするとともに土間と路地がつながる大開口をつくりました。ここは、路地が本当に素晴らしい。丸五市場はこのまちの象徴的な場所ですし、さらにそこ続く裏路地には物語を感じます。この路地を活かしたプランになりました。

風情のある路地に立つ「house next door」、すぐ先隣はもう丸五市場

パフォーミングアーティストにとっての第2の家になることを願ってつけた施設名

空間全部が舞台になるパフォーマンス棟。

彼女のパフォーマンスの特徴は理解していました。「見る」と「見られる」の関係が逆転したり、舞台と客席が双方向的に関わったり、まちが舞台になったり・・・。とにかくよく動きますし、移動しながらパフォーマンスを行う。それに対応できる場所としてパフォーマンス棟は設計しています。演者を下から見上げたり、逆に上から見おろしたり、路地から内部を眺めたり、建物の中から路地を見たり。パフォーマーがどこに居ても、居る場所がすべて舞台になるよう意識しました。基本的には創作や練習の場ですが、発表の場にも使えるよう造りは舞台空間です。エントランスを全開にしていると、通りすがりの人にも普段の練習風景が見てもらえます。パフォーマンスはお金を払って観てもらうものですが、最初のチケットを買うハードルが高いのだそう。そもそもどんな舞台なのかそれさえもわからない。この建物で練習風景を見て、面白そうだったらチケットを買って観にきてもらう。そんな場になれば嬉しいですね。
その他にも、アーティストという人種が、社会の一員として存在していることを知ってもらうきっかけにもなって欲しい、中間さんのそんな思いを実現する場所でもあります。

1Fと2Fが吹き抜けになっているパフォーマンス棟、2Fからの光が差し込む明るい空間

ほかにも舞台としての様々な工夫。内装アイデアは中間さんのパフォーマンスや衣装をヒントに。

舞台である以上、床の素材は大事ですので、とても気を遣いました。実は中間さんからは床材への要望がなく、僕の方で調べて桜の無垢板を提案しました。よくスタジオではよく使われる素材で、おそらくここにいちばんコストがかかっています。元々床を選ぶ意識がなかったせいか、サンプルを何種類か見てもらった時も「床、選ぶんですか?」みたいな感じでしたが、いざ選ぶとなるとそこはプロで、素材を足で触って比べていらっしゃいました。
舞台装置として機能するように考えた箇所もいくつかあります。さまざまな展開が創れるように、キャットウォーク、ふすま(間仕切り)などを盛り込みました。部屋を仕切ることができれば歌舞伎能で言う下座のような音響スペースになりますし、天井の梁も照明などを吊るすフライズとして使えます。吹き抜けにある転落防止のための柵も、部屋の内部にありますがベランダのようにも見えます。すべて舞台をつくる気持ちで設計しました。
中間さんの作品からもヒントをもらった部分もあります。彼女は、衣装や舞台にシルバー色の素材を多く使われる印象がありましたので、それを連想させる素材を各所に使用しました。壁の一面をシルバー系の金属板にしたほか、吹き抜けの転落防止柵も同じ素材感のものを採用しました。副次的な効果ですが、この壁の反射で、部屋を明るく軽印象にもなってくれています。

キャットウォークあり、和室あり、天井高を活かした演出も可能な吹き抜け

屋内も路地も舞台として使える仕様、両者を緩やかにつなぐ土間

選んでもらうことは、建築に参加してもらうこと。

床材だけでなく、土壁の色、塗料の色からふすま紙、畳の縁まで、実にさまざまなものを選んでいただきました。中間さんには、ご自身が建築に関わるという体験をしてもらいたかったからです。建築って、設計した建築家の作品ではなくて、お施主さんのものです。建築における体験も同じで、できるだけ出来上がるまでのプロセスを自身の体験としてほしい。その大切な体験を建築家が奪うことになってはいけません。今回に限らず、お施主さんにできるだけ考えて、そして体験してほしいと思いながら設計しに取り組んでいます。

縁起の良い「ひふみ石」(上)と施工に参加する施主の中間さん(下)

大事にしていることは、誰と仕事をするかということ。それは今回の改修でも同じでした。

「どんな設計をするか?」よりも「誰と仕事をするか?」に、すごくこだわってきました。ここはあの大工さんに、こっちの壁はあの職人さんにお願いしたい。そういう「職人」へのこだわりが強く、建築家として一番大事にしていることかも知れません。古い建物の改修には、知識と経験が必要です。ほとんどの家が新建材で建てられている現在、古い建物の改修ができるその職人さんが本当に少なくなってきました。これは僕の周りだけではなく、建築業界の大きな課題です。スクラップ&ビルドではなく、古い建物を改修して使い続けていくためにも、職人さんにちゃんと仕事をお願いして、技術を継承していく必要があります。今回の改修でも「技術をきちんと後世に引き継ぐ」という裏コンセプトを持っていました。土壁は、丹波篠山の左官職人・人見さんに、大工は、新長田の松尾さん。お二人ともご高齢です。左官の技術を若い人に知ってもらいたい思いから、今回、左官のワークショップを開催したのですが、人見さんは技術を学びたいという若い職人さんが遠方からも来てくれました。息子さんと一緒に工事にあたってくれた松尾さんも、大工の仕事を一通り息子に引き継ぐことができたとおっしゃっていました。古い建物を使い継いでいくためには、それを守っていく職人さんの技術も引き継いでいかないといけない。そのための機会を作ることも、僕たち、建築家の重要な仕事だと思っています。

丹波篠山の左官職人・人見さんは、タイ王宮の修復をするほどの技術者

松尾さんは新長田で暮らす地元の大工、今回の仕事を機に息子さんに大工を継承

Profile

角野史和さん
合同会社 こと・デザイン

一級建築士、まちづくりコンサルタント、散歩活動家、地域計画家。神戸市長田区駒ヶ林町を中心に、アートや防災を掛け合わせて古民家・空き地再生などに携わる。モットーは「つっかけで会いにいける距離感でとにかく顔をつき合わすんや!」。2014年日本都市計画学会計画設計賞受賞。暮らしとともにある建物やまちにこよなく愛を注ぐ。

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