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小畦雅史さん

建築家のしごと

10年近く放置され崩壊しそうだった自動車整備工場は、古材や古い道具の物語をつなぐ場所へ。

建築家・小畦雅史さん

放置されていた自動車整備工場を古材のストック&販売ショールームに 改修前(上)・改修後(下)

神戸電鉄長田駅の西側、神戸水天宮のそばに今回の改修物件「天神町Stock&Store」があります。建築家の小畦雅史さんがオープンした、古材と小道具のストックヤードとDIY工房がひとつになったスペースは、元々自動車整備工場だった場所。10年近く放置され、市場にも出ていなかった廃屋でしたが、活用次第で空き家改修の情報拠点として生まれ変わらせることができるのではと思い、大家である宮田優英さんと協力しながら、また改修の費用も半分負担しながら、思い描いた場に仕上げていきました。お二人がこの場所と出会い、にわかに始まった今回の改修プロジェクト。老朽化が激しかった建物を、快適な活動拠点として稼働させるまでの道のり。これまでも数多くの改修を手掛けてきた、小畦さんならではこだわりを伺いました。

出会いは塩屋の古民家改修。

Ryu Cafeで使用している古い建具。

今回改修した建物の大家である宮田さんとは神戸市垂水区の塩屋町での古民家改修で初めてご一緒しました。塩屋駅からほど近い人気のカフェ「Ryu Cafe(リュウカフェ)」の建物です。傷みが激しく、すべての箇所をしっかりと改修しようとすると、非常に手間とコストがかかる状況でした。思いや予算を踏まえ、最低限安全に利用できる状態にしましょうとお引き受けしたことを覚えています。当時の改修にも古い建具を積極的に利用したので、今回のStock&Storeに通じるところもありますね。

暗かった工場が、塗装とハイサイドライトの確保で明るい空間に 改修前(上)・改修後(下)

工場の高さと広さを生かす。古材のストックができる拠点の整備へ。

その後しばらくして、宮田さんが自動車整備工場だった場所を借りたという話を聞きました。ご自身の工房や物置にできそうな場所を探していたそうですが、一人で使うには大きすぎる場所だったようです。急増する空き家の再生に力を入れている建築家や工務店が集まって、情報交換や作業ができるスペースにできないだろうか。そんな思いも含め、まずは使えるようにしたいと改修の相談を受けました。最初は、ここを借りないか?という話ではありませんでした。ただ僕も古材をストックし、再利用するビジネスを考えていたものですから、空間的にも立地的にもピッタリだなと感じました。宮田さんにも話したところ、それならここを拠点にしたらどうなの?と誘われ、僕自身が借りることになりました。自分で使いやすいように設計して、古材を使って改修。実際に自分で活用しながら、改修を続けていく。まさに理想のプロジェクトです。このプロジェクトが実現できれば、宮田さんの思いにも沿えるはず。空き家を再生したい人が相談に来る、一人ではできないことでも何人か集まるとできるようになる、さまざまな挑戦を応援できる。そんな場所にしようと考えました。

入口の大きなガラス扉は、表からでも内部の様子が分かるようにする工夫

築50年以上。10年近く放置された廃墟のような工場。復活のポイントはエントランスでした。

まずは最低限使えるレベルまで戻そうと、屋根など外装から着手しました。中でも重要視したのは、エントランスとなるメインの開口部です。もともと入口は大きなシャッターだったので、閉めてしまうと殺風景な印象でした。そこで、閉店時でも中の様子が伺えるように大きなガラスの建具を設置。建具越しに、たくさんの古材が並んでいる様子が見てもらえます。外からチラッと見て、古材や古道具のお店だと分かるよう、ショーウィンドウ的な役割を重視しました。大きな開口部は、荷物の出し入れにも便利ですし、開けっぱなしにすることでお店を完全に外に開いた空間にできるメリットもあります。オープンから間もない頃でも、普通にふらっと入って来てくれた方がいたのは、この大きなガラス戸の効果だと思っています。また、最近はリノベーションの設計をご相談いただくことが多いのですが、この場所はリノベーションのショールーム的な空間も兼ねています。お客様には、古い建材や建具を手に取ってご覧いただけますし、実際に古材を使って改修した空間で打合せができるので、出来上がりのイメージがしやすくなります。これまでは、倉庫を借りて古材をストックしていたので、僕以外の人に見てもらうことが難しかったのですが、この場所ができたことで、お客様が手に取って見られるようになりました。実際に、ここで見て触れて、自宅などの改修に使う建具を選ばれることもあり、期待していた通りの効果が出ています。

そこにあった場の良さを活かすために、改修は最低限にとどめる

古い物件の改修で心掛けているのは、あまり仕上げのハードルを高くしないこと。

この建物は斜面に建っている関係で、建物内に段差が生じています。この段差を使いこなしつつ、思い描いている店舗空間をどう実現していくか。平らなところをできるだけ確保して陳列スペースとしたい。お店にとっていちばん必要な機能だけど、段差があるので簡単ではない。この部分に一番悩みましたが、実際に完成してみると、高さが違うところそれぞれに機能があり、結果として段差がある建物だったおかげで、変化のある面白い空間になったと思っています。僕の感覚なのですが、あまり機能面に悩みすぎると、その空間としての心地よさが消えてしまうような気がします。暑さや寒さ対策とか、仕上げの綺麗さとか。きちんと作ろうということに捉われすぎると、本当につくりたかった空間の良さが損なわれてしまうこともあります。コンクリートのガサガサも、飛びはねたペンキの跡も、この空間の雰囲気に合っていたのでそのまま残してあります。

工房の利用者は、さまざまな工具を使って自由に古材を加工できる

工房を併設する。これは僕の中では大事なチャレンジでした。

ショールームに併設して隣に工房を作ったのも大きなポイント。僕が設計の仕事をお請けしている物件で古材を使うだけでは、その物件の数しか循環していきません。循環の輪を大きくするためにも、古材を使ってテーブルや椅子などをDIYしてみたい方たちに、この場を使ってもらえないかと考えました。お店の方で古材を購入して、工房で加工する。完成したら持ち帰ってもらう。そんなことができればと思い、木材の加工機械などをたくさん準備しました。大型機械ではなく、使い勝手のいいハンディなタイプ、DIYで使えるものばかりだと思います。工房のお客さんは、今のところ僕が改修した施主さんが多いですね。 僕は改修の過程でワークショップ的にDIYを交えながら空間作りすることがすごく多いので、それを体験した施主さんも、住まいながら必要に応じてテーブルや棚を自分で作り足されたりしています。DIYワークショップを改修のプロセスに組み込み出した頃は、その先の展開までは考えが及んでいませんでしたが、長く続けているうちに、そんなDIYへのニーズを感じましたので、気軽に使える工房があればきっと使いたい人がいるはずだと思いました。家の改修でなくても、家具だけ作るとか、気軽にどんどん使っていただけるサイクルが生まれたらうれしいですし、古材が循環していく社会をつくる場として機能してほしいですね。

販売している造船所の足場板(上)と実際に使ってみた店内の床(下)

「ものがたり工作所」という社名の意味。それをこの場所で実現できればと思います。

古材や古道具などのモノがこの店に来ることになったプロセスや、そのモノにまつわるお話みたいなものを聞いたり話したりするのがすごく好きで、そういうものを伝えたくて集めている部分もあります。古いモノには語りたくなるエピソードがいっぱいあります。DIYも同じ。こんな人たちと一緒に作ったとか、すごく大変だったねとか、その過程を語れるところがあります。そのエピソードや過程といった「ものがたり」をリンクさせる場所。このStock&Storeはそんな場所になったと思います。たとえば改修には、今治の造船所の足場で使われていた板や、ここを手掛けてくださった大工さんからもらった足場の板なども使用しています。その他にも、りんご箱を活用したり、壊すことになった古民家からもらってきた欄間や生活を感じるレトロなガラス、床には僕がリノベーションしてきた物件の端材をミックスして使っています。すべての材料には、物語が宿っています。まだ使える物はできるだけリユースして循環させたい。古材を利用する際に出る端材さえも、捨てずに薪ストーブなどの燃料として無駄なく使う。物語をつなげていくことが、僕の仕事なのですから。

ストアでは、解体作業で出るさまざまな部材を販売

建材や建具だけでなく、使えるものはできるだけ廃棄せず、しっかり救い出していきたい。

家を壊す時に、すべて廃棄物として処理されるケースが殆どです。しかし廃棄前にまだ使える物を引き取らせていただく機会があれば、できるだけ引き取ります。僕が見て、これは使えるなとか可愛いなというものを、見捨てずに救い出していく。それは建築に関わる僕たちの使命ではないでしょうか。すべて掬い上げられるわけじゃないけど、できるだけ救出したい。例えば古い型板ガラス、長田区には板ガラスを食器に加工している会社があり、建具に入っていたような古いガラスをカットして食器にしてもらったりもしています。目下の課題は、この場所をより多くの方に知ってもらうこと。神戸市内でこの規模で古材をストックしながらショールーム的に開放している場所は、現状なかなかないかと思いますので、古材の活用に興味ある方に、気軽に相談にきてもらえると嬉しいですね。

天神町Stock&Storeは、さまざまな人に古材や古いモノの価値を伝えていく場

思い返すと、個人事務所として独立した頃から、施主さん参加型のワークショップをしたり、施主さんの農作業を手伝いに行ったりとか、意識して仕事と生活を混ぜてきました。そもそもそこに分け隔てをしない方が、僕自身も豊かに暮らせる感覚がありました。建物の姿形だけではなくて、そこに住む人の暮らし方を変えていきたい。そうすることで、社会の状況もちょっと豊かな方へリノベーションできるのではないかと考えています。

Profile

小畦雅史さん
小畦雅史建築設計事務所/ものがたり工作所

築40年の分譲マンションの1室をリノベーションし、壁に黒板塗料を塗ったり、可動式の本棚を創ったり、ダイニングテーブルの配置をぐるっと変えてみたり。あーでもないこーでもないと、自分で手を動かし改善しながら暮らす。

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