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秋松麻保さん

建築家のしごと

空き家・古家の活用や古材のリユースを促す事業。まちに開かれた巨大な窓は、その活動拠点のシンボル。

建築家・秋松麻保さん

坂をあがると自然と目に入る大きな窓は、この古材活用拠点のシンボル(上)、改修前(下)

塩屋駅から歩いて7〜8分。急な坂を登った斜面の中腹に、プレハブの2階建ての建物があります。最近開発された新興住宅エリアのすぐ横に、ひときわ目立つ大きな窓。中を覗くとたくさんの古材が見えます。ストックされているのは、柱や梁、ドア、窓などさまざま。すべて壊される古家から譲り受け、救出してきたものだそうです。オーナーの小山さんは、シオヤプロジェクトなどで、地域のためにさまざまな取り組みをされている方。今回その活動拠点として、ご自身の家の隣にあった空き家を改修されました。完成したばかりの建物にどんな可能性があるのか。今後、塩屋のまちとどのような関係を築いていけるのか。そもそも、このような改修になった意図や経緯は…。使い道さえ決まっていなかったこの建物のあり方を、ゼロから一緒に考え、悩み、伴走した、建築家の秋松麻保さんにお話を伺いました。

きっかけは私の自宅敷地内にある空き家の改修、私設図書館「世界のはしっこ Books&Field」でした。

この建物のオーナーである小山さんは、もう何年も前から改修の構想をお持ちでした。しかし、いざ手をつけるとなると立地的にもコスト的も難しく、泣く泣く断念せざるを得ない状況が続いていたようです。たまたまですが、この物件を手がける少し前、私は自宅の敷地内にあった別棟の空き家を改修し、「世界のはしっこ Books&Field」という、私設図書館をつくりました。その経緯をご覧になった小山さんが、連絡をくださったのです。「世界のはしっこ」では古い住宅というイメージを払拭し、公共施設としての顔を持つ意匠性を重視してリノベーションしたのですが、それが塩屋空き家再生プロジェクトの活動をされていた小山さんの目に止まるきかっけにもなりました。

1階も2階も、入り口は別々、いずれも床から天井まで窓という印象

地域に貢献できる、公共的な視点を持った建物とは何か?議論はそこから始まりました。

補助金を活用して改修したい。小山さんは最初からそんな話をされていたので、公共的な意味を持った建物にするつもりなのだろうと想像はできました。同じ塩屋のまちへ、同じ町内へ、自分の建物を開いていくという活動は、行政や企業が手がける大きな公共施設とは違います。こういう身近なムーブメントは、まちに点在するような広がりになっていくべき。小山さんもまさしく同じ思いでした。そこから、議論は重なっていきます。当初、まだ場の使い方が決まっていませんでしたが、「子どもとの交流」「学び」などの場にできないだろうかというぼんやりとした構想はお持ちでした。小山さんのお母様は書道家ですし、回りにも文化的な活動をされている方が多かったのでその影響もあったようです。しかし、地域住民に利用していただく施設をつくるとなると、開館時間や利用ルールなど、さまざまな取り決めが必要になります。そういう懸念もあり、小山さんがこれまでやって来られた活動の延長線上に、使い道を見出してはどうだろうかと思うようになりました。小山さんの活動には公共を感じる部分がたくさんありましたから。

注目したのは、オーナーが長年やってきた古材活用の取り組み。

議論を重ねた末、小山さん自身がずっとやってきた古材活用の取り組みの拠点にすべきじゃないかなと思い、その方向で提案をしました。今回、私は建築家としての参画でしたが、設計よりもこの建物で営む事業の話ばかりをしていたように思います。どんな建物にするか、どんな場をつくるか。それ以前にどんな役割を持たせるべきか。なりわいの場としての意味を議論した結果が、古材をストックする拠点という形になったのではないかと思います。小山さんのところには、地域の建物に関してのたくさんの情報が入ってきます。そういう人脈もお持ちですし、いまの時代にマッチした活動。そのポテンシャルを最大限に活かすことができるように、この建物を活用しよう。そんな風に話が発展していきました。古材は地域の大切な資源。その宝物を地域のみんなで使う。そのためにはどんな仕組みを作れば良いのか。アイデアを考える会議というより、妄想を膨らませる話し合いが続きました。

尺の長いものも置けるよう床を抜いた1階(上)と置かれた古材(下)

古材活用の拠点へ。外観からも空き家改修のポテンシャルに期待できる建物に。

ようやく活用内容が決まり、建物の意匠について考えるフェーズになりました。実は、今回のお話をいただいた際、小山さんからひとつだけ条件の提示がありました。それは、母屋のリノベーションをされた工務店さんと一緒に取り組んで欲しいというもの。その工務店さんは、改修が必要な場所はどこか、どの程度傷んでいるのかなど、建物の状態についてもよくご存知だったので、私としてはむしろ有難い話でした。また、それ以上に魅力的だったのは、さまざまな建物から救出してきた古材をお持ちだったということ。古材活用の拠点をつくるのですから、古材を使わない手はありません。改修前、小屋の中はお化け屋敷みたいに真っ暗な状態でしたので、まずは明るくしようと。できるだけシンプルに、窓を大きくしようと。その大きさがつくり出す、開かれた印象の建物。変な小細工を加えるよりも、一瞬で「まちに開いているよ!」というメッセージが伝わる外観。この大事な役割を担う窓探しがスタートしました。

まるでお化け屋敷のように真っ暗だった、改修前の小屋

窓を設計するのではなく、イメージに合う古材の窓を見つけ、それを設計に採り入れる。

まずは、オーナーの小山さんと工務店さんを訪ね、倉庫にストックされている古材を見せてもらうことにしました。設計図面を引く前のことです。建物は南側がメイン。駅の方から坂を上がってきた時、最初に見える面なので、できるだけ大きな窓をつけよう。これは共通のイメージでした。小山さんは工務店さんと長い付き合いなので、どんな古材がストックされているのかということも大体把握されていました。ある美容室の窓を改修した際の事例を挙げ、それぐらい大きなサイズの窓を使いたいとか、使えそうな窓枠が3つあるとか、すでに改修のイメージをお持ちでした。どんな古材があるのだろう、どんな仕上げになるだろうと、建築家の私の方が情報的に白紙。今までの仕事で初めてのパターンでした。

光と風が注ぐ気持ちのいい2階(上)と海が見える窓(下)

工務店と建築家が、対等な立場で建物をつくる面白さ。

立場的には設計者として入っていましたが、ある程度、工務店さんの意見を汲み取りながら進めた方が面白くなりそうだと思い、その前提で仕事を進めました。工務店さんの個性やユニークさを最大限に引き出せた方が、良い建物になると確信していたからです。最終的には、倉庫で目星をつけた古材や窓を使うことになるため、図面をキチンと書いてその通りやっていただく仕事ではなく、構造的な建物の耐震性などはクリアした上で臨機応変に自由につくっていただこうと。もちろん、明らかに脱線だけはしないように、コミュニケーションを取りながらですが、現場をよく知る工務店さんに任せることは重要です。立場は建築家と対等であるべきですし、お互いの信頼で成り立つもの。あまり無い進め方でしたが、それが功を奏したプロジェクトだと思います。

スツールに見立てた古材(上)、この小屋のために誂えたようなドアも古材(下)

建物の設計と事業の設計。どちらも建築家の仕事だと思います。

建築家の仕事としては、意匠面でのサポートは大事なことなのですが、空き家の活用という側面で考えると、使われ方の方が圧倒的に大事です。この場で行われる事業や取り組みが継続しないと意味がありません。継続のために、どういうシステムを作れば良いか。建築家と施主は、まずはその部分を共有することから始まります。今回は最初から事業の設計も含めてご相談を受けたという経緯もありましたが、意匠だけでなく、事業が継続的に回っていく仕組みをつくること。そのためにはまず、どういう使われ方をすべきか、どんな印象を残すべきかを考えること。建物の設計はその後で良いはず。まちに開かれた事業と、まちに開かれた建物。この印象こそ、建築家が関わった大きな意味だと思います。

Profile

秋松麻保さん
融点株式会社 取締役 / 大阪府出身

京都工芸繊維大学造形工学科卒業後、アパレル会社にてオリジナルアクセサリーブランドを立ち上げ独立。その後イタリア人建築家のもとで再び建築を学び、2017年より融点に参加。 2021年より、自ら企画・設計のまちライブラリー「世界のはしっこBooks & Field」にて住み開きを始動。

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