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村上隆行さん

建築家のしごと

都市と農村の人が集い、交流する。建物もその役割も、古民家ができた当時のままのカフェ、まんまるHouse。

建築家・村上隆行さん

古民家の風情をそのまま残して再生 改修前(上)・改修後(下)

古くから農業が盛んな北区淡河町。豊かな自然が魅力的なエリアですが、近年は少子高齢化と共に空き家が増え、まちの将来に不安の声も聞かれるようになってきました。そんな中、移住希望者から相談を受け、住居や農地の情報を提供し、農村地域の空き家のマッチングなどを行っているのが、農村定住促進コーディネーターであり、建築家でもある村上隆行さんです。今回改修した物件は、築80年ほどの古民家。できる限り元の建物の良さを生かしながら住み継ぎたい。そんなオーナーの思いを受け、淡河に生まれ育ったからこその視点を活かしながら、村上さんが改修に取り組みました。

縁側からは田畑や里山が見渡せる

コーヒーの提供を通じて、家を地域にひらく。そんなオーナーの熱い思いや人柄に惹かれました。

普段からこのエリアでは、地域活性などさまざまな活動をしているのですが、オーナーの河野さんとも、その中で知り合いました。今回の設計も、私だからということでなく、きっと河野さんが知っている唯一の建築家が私だったからお話をいただいたのでしょうね。ファーマーズマーケットをはじめ、さまざまなイベントでコーヒーを提供されている河野さんは、常々、コーヒーはコミュニケーションツールだとおっしゃっています。そんな人がカフェをフックにした新しい交流拠点をつくろうとしているのだからぜひ協力したい。はじめて会った頃から、よく構想を聞かせてもらいました。人をつなごうとしている想いに共感したことを覚えています。彼も私が古民家の改修に取り組んでいるのを知っていたようですし、その古民家でのイベントにも来られていたので、古民家の改修=私だったのかも知れません。

今回の古民家は、田畑もセットで購入されたそうです。母屋や蔵、離れ、倉庫がありますが、改修したのは30坪ほどの母屋です。古民家の良さを感じてもらえる空間で都市部と農村部の人の交流を生み出したい。そしてコーヒーやお菓子を提供できる小さなカフェスペース。要望はとてもシンプルなものでした。ここは農村エリア、市街化調整区域特有の手続きも必要だったので、まずはそんなお手伝いからスタートしました。

できる限り何もしない。手を加えず、そのまま活用する。それが、辿りついた答えです。

応接室は厨房+提供のためのスペースに。座敷は、お茶やお菓子を楽しみながらくつろいでもらえる場所に。せっかくの古民家だから、その風情をできるだけそのまま継承できないかという相談を受けました。この家には刻んできた歴史があります。あまり手を加えずに、元々の建築の良さを残しましょう!そんな話をしながら、改修の方針を決めていきました。約80年前に建てられたものでしたが、以前に住まわれていた方が生活様式の変化に合わせて少しずつ増築されたのでしょう、元の状態より広くなっていた半面、外周部への増築で開口部が減り少し暗くなってしまった部屋もありました。例えるなら、余分な衣装をまとっているような。そこで、建物本来の魅力を活かし、古民家の良さをそのまま継承するにはどうすれば良いか。改修では、そのことを第一に考え、河野さんとも話し合いました。アルミサッシを撤去し、直接外の空気に触れられる縁側に。日中は雨戸も開けているので、吹きさらしですが、庇が長く幸い雨に濡れることはありません。陽も入るので、ひなたぼっこもできます。テラスのような感覚で使ってもらえる開放的な空間になりました。一方キッチンは、天井が低くかなり暗い印象だったので、床を土間に戻すとともに、天井をめくり梁を表しにしました。隣室との段差を処理する階段は収納を兼ねるなど、使い勝手の良い空間に。新しく設けた木製サッシの開口からは田んぼの石積みと緑が見え、この場所のアクセントになりました。今回の改築の目玉であるカフェスペースも、凝ったものにはしませんでした。コンロとシンクだけがあればいい。それ以外は、何も余計なものを作らない方がいいだろうと思ったからです。ただ、カフェとして使われることを考えると、最低限のカフェらしさも必要です。ひと目でそれとわかるように、顔になる部分をつくろう。ショーケース受け渡し口を兼ねるウィンドウを提案しました。

風が通る、光が差し込む、オープンさが心地よい飲食スペース

土間の台所は高い天井が特徴、木製サッシがアクセントに

人が集う場所だから、みんなでつくる。そのプロセス自体もこの建築の一部です。

今回の改修で特徴的なのは、手伝いたいと言ってくれる人がたくさんいたことです。自分たちも壁を塗ってみたい。竹垣が、お店のオブジェになるのなら、竹を切るところから一緒にやってみたい。河野さんの人柄がそうさせたのでしょう。参加者を募集したわけでもなく、ワークショップでもなかったのに、多くが集まりました。職人さんたちも、壁の塗り方や竹の編み方などをていねいに教えてくださいました。近隣の人たちに、オープン前から携わってもらえる機会をつくれたことは、この場所で今後様々な交流を生み出していく上で、大きなプラスになることは間違いありません。すべての作業を職人さんに任せた方が当然早くできますし仕上げも綺麗なのですが、人との関わりは、河野さんが最も大切にしている場の価値、言わば河野さんの生活の一部です。建築のプロセスとしてはほんの一部ですが、地域の人たちと家づくりを共有できたことは、今後の財産ではないでしょうか。河野さんの家、河野さんのお店ではなく、みんなの家。みんなのお店になったのですから。カフェが12月2日にオープン。しばらくは週末だけの営業のようですが、土釜焙煎のコーヒー、河野さんの田畑や地域で収穫した食材を使ったワンプレートなど、ここでしか味わうことのできないメニューが提供されます。また、都市部に住んでいると中々触れることがない農村部の文化が学べる場として、山菜についての講習会、藁細工のワークショップなども開催されるそうです。都市部と農村部が交わる場所、コーヒーとお菓子でホッと一息つける場所、そんな拠点として、この建物は機能していくことでしょう。

ショップの顔として機能するショーケースは村上さんの提案

シンプルで使いやすい厨房

新築でも増築でもなく「減築」という考え方。建築家として、学びの多い改修でした。

私が古民家の再生に取り組んでいるのは、場の物語性を掘り起こしたいという思いからです。自分が建築家としてすべきことは何か。最近、その輪郭がはっきり鮮明になってきました。いろいろつくりましょう!という提案をできるだけやめたい。言うなれば「減築」なんですね。今回の物件で言えば、増築した部分を撤去しましたし、植栽が覆い茂っていた家の周囲もすっきりと整理。壊すのではなく、余分なものを取り除く。それは、もともとの価値をとり戻す作業でもあります。いくつか古民家を改修しているうちに、古民家というのは、農作物を育て、地域の人とつながりを大切にする暮らし方の素晴らしさを教えてくれる場ということがわかってきました。それは、自分の暮らしを見つめ直すきっかけにもなっています。ここ数十年、新しい暮らしを求めて、物が増え、生活が一変し、設備も新しいものを取り入れ、ある時期に、みんな建て替えや増築をした時代がありました。それによって、古民家の魅力が失われてしまった。地域の魅力も失われ、人が地域から出ていき、その結果、空き家が増えている。この流れを逆回転させることが、建築家の使命ではないかと思います。最近は、古民家に興味を持つ人、田舎で暮らしてみたいという人が増えてきました。時代もそっちを向き始めています。古民家で使われている大黒柱や梁の素材は、もう手に入らないものばかり。また、当時の大工さんの技術も高く、しっかりした建物が多いです。その価値をきちんと伝えたい。建替えだけでなく、今ある建物を使うという選択肢にも目を向けてもらう。ここは残そう、ここは触らずにおこう。そういう提案ができるのも、建築家の使命なんじゃないかと思いますよ。

古民家が似合う、北区・淡河の田園風景

Profile

村上隆行さん
eu建築設計

兵庫県神戸市生まれ。神戸大学大学院修士課程修了。高口恭行・造家建築研究所、宮本佳明建築設計事務所等を経て独立。公益社団法人日本建築家協会正会員、公益社団法人大阪府建築士会正会員、神戸松蔭女子学院大学非常勤講師、日本理工情報専門学校講師、一般財団法人淡河宿本陣跡保存会代表理事、淡河の明日を考える会(淡河ワッショイ)、神戸市農村定住促進コーディネーター等の活動を通して、北区淡河町の地域活性化にも取り組んでいる。

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