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小畦雅史さん

建築家のしごと

地域の人たちの心の拠り所だったお地蔵さんのある家。だからこそ、その姿をできるだけ残そうと考えた。

建築家・小畦雅史さん

お地蔵さんをアイコンに、外構はポケットパークとして開放的に整備

長田区丸山町、閑静な住宅街の一角。地域のみんなに愛されるお地蔵さんがある家。地蔵盆などのイベントでは、地域の人がよく集まっていたそう。長い間、そんな地域の拠点として親しまれた一軒家も空き家になっていましたが、これを引き継いだのが、社会福祉法人シティライトでした。まちのみんなに開かれたあたたかい場、そして、誰もが訪れやすい場であり続けるために、どんなカタチで残していくべきか。社会福祉法人としての障がいのある方の利用のしやすさも考えたい。それは、建物というより、お地蔵さんも含めた場やコミュニティのあり方への問いでした、今回、そんな難解な問いに、ていねいな対話を通じて応えたのが、施主ファーストの建築家、小畦さんでした。

改修前、課題はお地蔵さんと母屋をどのようにつなぐか

施主様の思いを聞き取りながらより良い提案を模索する

リノベーションは、私の仕事の中で8割ぐらいのウエイトを占めています。今となってはそれぐらい大切な仕事ですが、それにこだわっているわけでも、意識的に提案しているわけでもありません。相談してくださった施主様が、何を大事にされているのか、その家でどんな暮らし方・使い方がしたいのか、予算は?などなど。そういった思いやニーズなどを聞き取りながら、新築か、リノベーションか、はたまた模様替えだけで済むのかなどを考えます。施主様にフィットするものをひたすら提案しているだけですが、自ずとリノベーションが多くなっているというのが正直な話。コストの問題もありますが、長年住んできた家への愛着や古民家の持つ温かみを残したいと思っていらっしゃる気持ち。そういったものが施主様の中にあるのだと思います。今回の物件にも、そんな思いが詰まっていました。

さまざまな人が「居場所」を求めてやってくる

お地蔵さんを、そして家を、地域に開く試み。建築ならでは解決策を探る。

今回のリノベーションも、この物件を引き継がれた社会福祉法人シティライトさんの思いを伺うところから始まりました。地域や福祉のために役立ててほしいと前オーナーから引き継いだ物件。だからこそ、まちのためにもなるし、社会福祉法人として、障がいのある方の居場所にもしたい。そんなまっすぐな気持ちを受け止めながら、アイデアのキャッチボールを続けました。その中で、ポイントとして上がったことが2つあります。1つは、敷地内にあるお地蔵さんの活かし方。もう1つが、地域の方が誰もが来やすい、入りやすい雰囲気づくりです。もともとお地蔵さんは、ここに住んでいた前オーナーを含め、有志でつくったものだったようですが、今や朝夕前を通るたびに手を合わすご近所さんも多く、地域にとって心の拠り所となる大切な場所になっていました。まずは、手入れされずに放置されていた庭木や植栽を整理しました。花が咲く梅や桜と、実の成る夏みかんの木を残しましたが、竹林はすべて撤去。お地蔵さんのまわりがすっきり広くなったところで、周囲に柱を立て、祠のようなものをつくろうと考えました。ただし木材のフレームのみで、屋根や壁はありません。光や風、雨も含め、自然を感じる祠です。お地蔵さん・庭・母屋へと続くアプローチを一体的にポケットパークとして整備。施設を含め、ちょっと寄ってみたくなる、地域の象徴的な場が生まれました。立ち寄った人が、休憩してもらえるようにベンチの設置も計画しています。

改修前、庭に面した和室

改修後、外部とフラットにつながった土間

コミュニティの再生のためには施設を閉じないこと。それを可能にした土間の役割。

もうひとつのミッションは、外に開かれた誰もが入りやすい施設にすること。玄関以外からもアクセスできようにできないだろうか。そんな議論の中から生まれたのが、庭に面した壁を壊し、居間だったスペースを土間にするアイデアです。フラットでなかった床面を平坦にするのはなかなか大変な作業でしたが、視覚的な開放感が生まれました。庭と地続きで一体的に使えたり、こういう場所があることが外から見えるメリットは想像以上です。車椅子の方が出入りしやすくなりましたし、実際に人影が見えると、また別の人も入りやすくなるなど、相乗効果も生まれています。一方和室だった場所は、シティライトの利用者様が使えるよう、そのまま残すことにしました。建具で仕切って個室として使えるため、障がいのある方や精神的に追い詰められた方が、ちょっと逃避できる居場所としても機能しています。

改修前は建物が見えないほど植栽が茂っていた

古くからの関わりをつなぎ、新しい関わりを生むことで、みんなに愛される場所に育てる。

もともと、老人会の世話役さんが住んでいたこの家には、地蔵盆や行事のたびに近所の方が集まっていたため、工事の段階から注目されていました。壁塗りなどのワークショップには、ご近所さんや学生さんも含め、のべ30人ぐらいの方が参加くださいました。愛着のある場所が、素晴らしい施設になって良かったと、みなさんも自分の家が完成したかのように喜んでくださっています。この家は、当初森のようでした。庭だけでなく建物の周囲にも木々が生い茂っていて、建物も見えない状態だったのですが、そんな木々も撤去。すると遠くからでも窓灯が見えるようになりました。今回のお話を頂いたときから、交差点という目立つ場所にあることが気になっていて、象徴的な見え方をする場になればという思いがありましたが、まさに「まちのあかり」になれるようにと願うシティライトの思いとも重なったわけです。

Profile

小畦雅史さん
小畦雅史建築設計事務所/ものがたり工作所

築40年の分譲マンションの1室をリノベーションし、壁に黒板塗料を塗ったり、可動式の本棚を創ったり、ダイニングテーブルの配置をぐるっと変えてみたり。あーでもないこーでもないと、自分で手を動かし改善しながら暮らす。

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